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館長の美術館ザッピング82「奥原晴湖と近代の南画」展の見どころ①（前期３月23日まで）◎奥原晴湖の作品変化と画室名 天心記念五浦美術館

館長の美術館ザッピング82 小泉晋弥館長が、美術館を歩き回って気づいたことを綴ります。 「奥原晴湖と近代の南画」展の見どころ①（前期３月23日まで） ◎奥原晴湖の作品変化と画室名 奥原晴湖は、29歳で上野に画室を開き「墨吐烟雲楼」と、55歳で熊谷に移り画室を「繡水草堂」（繡佛草堂）と名付けた。 本展まで、それを意識したことはなかったのだが、作品が並んだ展示室を一巡してみて、「名は体を表す」という言葉は真実だと思った。 　まず「墨吐烟雲楼」。墨を吐いて、煙か雲のように、伸びていく楼閣。幕末から明治初期に大流行した、文人画の勢いが感じられるようなバブリーな命名である。 五十代なかばで、熊谷に落ち着いての名前は、最初「繡佛草堂」。刺繡の仏を祀る草ぶきの家。すぐに仏を水に変えて「繡水草堂」と呼ぶ。刺繍の水では意味がとりにくい。美しい水のほとりの草ぶきの家、というくらいの意味だろう。草堂は、隠棲する家を謙遜する名前である。 　「墨吐烟雲楼」の頃の絵は、墨が画家の意志をも超えて、ぐんぐんと伸びていくような勢いに満ちている。一方で、「繡水草堂」の頃の絵は、筆跡が細かく、まさに刺繍のようなタッチで細密に描かれる。間違いなく晴湖は意識して画室の名前を変え、絵のタッチも変えたのだと思う。 　展示室で、一堂に並べてみるとその違いが一目で感じられる。故小川知二先生は、このように変化した理由はよくわからないと書いている。これから、約二か月の会期中に、その謎に迫ってみたいと思う。