【自立って何？】玄侑宗久の色眼鏡（１２月６日放送） скачать в хорошем качестве

【自立って何？】玄侑宗久の色眼鏡（１２月６日放送）

「自立」と「保護」ということでお話ししたいんですが、学校なんかに講演を頼まれて出かけますと、よく「学校の目標」というのが貼ってあります。非常に目につくことが多いのが「自立」という言葉。自立っていうのはもともと欧米から入った言葉でindependenceの翻訳語です。つまり「『depend＝頼る』ことができない状態」ということ。 どういうことかというと、昔は、特にヨーロッパなんかは６，７歳から徒弟奉公に出た訳ですよ。徒弟奉公に出ると親方の家に暮らす訳だし、親は全くその生活の状態を知らない訳ですよね。 例えば兄弟子に連れられて飲み屋に行ったとか、たばこ吸ったとかということも、１０歳、１１歳でやったりする訳ですよ。そのことに関して親に責任はない。親とすればまったく知らない世界に子どもが生きてる訳ですから、その状態をindependentと言ったわけです。子供が親から自立しているということですね。 翻って、日本で「自立しましょう」ってどういうことなのか。私らからすると、やっぱり一人で生きている訳じゃないですよね。今の時間だって電話がくれば女房が出てくれるし、こうやってコーヒーも持って来てくれるし、そういう「おかげさま」で暮らしてる訳じゃないですか。それぞれが「自立してる」という風に思いましょう、ということが私には理解できないですね。 欧米ですと、法律を見るとすごく分かるんですけど、今でもイギリスという国はおそらく１０歳の子どもが悪いことしたといった時に死刑があり得るんですよね。ちょっと調べたんですけども、1814年、イギリスで8歳から12歳の子どもたちが些細な窃盗罪で捕まったんですけど、絞首刑です。1833年には2ペンスの印刷染料を盗んだ9歳の少年が縛り首になってる訳ですね。だから「ジェントルマンは一日にしてならず」なんですよ。そうやって自立している子どもに責任を取らせるということがあったから、ジェントルマンの国になったんじゃないですかね。 17世紀くらいから公教育・公の教育ってのが始まって来て、日本は明治５年に学制が発布されますよね。だんだんとその動きが広まる中で、アメリカのイリノイ州では1827年に刑事責任年齢が7歳から10歳に引き上げられた。1831年には18歳までは刑務所に収らんされないということになっていって、要は、「教育機関というのは保護の機関である」と。親が子供をちゃんと保護して。だから自立なんかしてない訳ですよ。そうやって保護しましょうっていう風に世の中はどんどん流れて来た訳ですね。 その中で気になるのは「保護」と「自立」の分かれ目というのは何なのかということです。 それは「子どもが持っている情報を親が知っている」という事です。親が知っている間は保護できる。ところが今はスマホとか携帯電話みたいなものを子どもが持っていて、子どもが何を知っているか、どんな情報に触れているかを親が知らない。つまり、自立しちゃったんですね。しかしそういう自立というのが果たして学校で掲げている望ましい自立なんだろうか。やっぱり親と子の関係で言えば、あくまでも子どもは保護の対象だし、そして子供の間は親が責任を取るという体制が望ましいんじゃないか、だとしたら、自立じゃないでしょう。という風に私は思うんですよね。 だから、本来の意味を知らずに「自立しましょう」ということを目標に掲げていますが、「自立するってどういうことなんですか？」ということを是非、校長先生には聞いてみたいなと思いますね。自立って、危ない言葉だと思うんですよね。やっぱり自分は自立していると思うんじゃなくて、皆のおかげでこうやって暮らせてる、という風に思った方がいいんじゃないでしょうか。 #自立 #保護 #玄侑宗久 #色眼鏡