【朗読】山本周五郎「夜明けの辻」前編　　彼は「曲軒」と云う綽名をもっている…ともするとなにかひと理屈こねるし、異説を建て、人と和する法を知らない。つまり臍が曲がっているというくらいの意味である。 скачать в хорошем качестве

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【朗読】山本周五郎「夜明けの辻」前編　　彼は「曲軒」と云う綽名をもっている…ともするとなにかひと理屈こねるし、異説を建て、人と和する法を知らない。つまり臍が曲がっているというくらいの意味である。

上州小幡藩、国家老津田頼母の家にて山県大弐の講演があった。襖を払った部屋には四十人ばかりの聴講者、広間だけでなく廊下にも聴衆がいた。老職をはじめ、身分違いの軽輩がいたり婦人たちの姿もあり講演者の希望か国老の発意かこういう席にしては型破りなものであった。国家老の津田頼母、江戸家老吉田玄蕃との推挙で山県大弐をお上の賓師にすすめようとしておりこの小幡の地での講演もその手順の一つであった。講演が終わり,先に津田邸をでた功刀伊兵衛は来栖道之進を待っていた。道之進は年齢はまだ二十五であるが出頭の近習番として家中の人望を集めている。これに対して伊兵衛は剣では随一の名をとっていたが「曲軒」という綽名をつけられ、家中の評判はあまり好ましくなかった。しかし二人は相惹かれあう奇妙な友情で結ばれていた。今夜の講演者の感想を述べる伊兵衛の言葉に、「悪い癖だ貴公は捻くれた見方をする」と道之進が答えると「しかし道之進、あの大弐どのは殺されるぞ」と伊兵衛は云った…。実は家中には二つの勢力が対立していた。津田、吉田の一派は進取派で藩政を改革しようとしている。一方、江戸表用人松原郡太夫、津田庄造、年寄役柘植源右衛門らの旧守派で古い権力政治を押通そうとしていた。

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