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【長崎新聞】上五島つなぐ堤防道路

五島列島北部に位置し、大小七つの有人島がつながる新上五島町に、橋ではなく、防波堤でつながった島が二つある。西端に位置する有福島［ありふくじま］と日島［ひのしま］だ。堤防道路といえば「諫早湾干拓堤防道路」が知られるが、長崎県によると、県内の国道、県道で島をつなぐ堤防はほかにないとみられ、非常に珍しいという。１９７０年代に完成し、今では当たり前のように鎮座するが、その景観は驚きとともに海の青、山の緑に映え、美しさに息をのむ。堤防道路はいかにして“架かった”のか。成り立ちに興味をそそられ調べてみた。 　旧５カ町が２００４年に合併してスタートした新上五島町。このうち旧若松町は中通島、若松島、漁生浦［りょうせうら］島など六つの島にまたがり、かつては町内の交通手段を船に頼ることが多かった。特に有福島と日島は水道管が他島とつながっておらず、貯水池が頼り。夏場などは水不足に陥ることもあったという。 　「世帯数も少なく、費用対効果を考えると橋よりも防波堤をつくる方が取りかかりやすかったのでは」。日島郷の釜崎信弘さんは推測する。１９７９年に若松町役場（当時）に入庁。漁港係に配属され、完成間もない堤防道路の検査に立ち会った一人だ。 　架橋と堤防の建設コストはどれぐらい違うのか。県五島振興局上五島支所によると、地盤などの状況にもよるが、堤防は橋に比べて建設費は約４分の１。７９年に若松島と漁生浦島に開通した漁生浦橋の建設費は約３億５千万円だった。 　旧若松町は７０年代、有福島、日島、漁生浦島をつなぐ方策を探った。新上五島町によると、当時、日島漁港は港内への強い潮流や波浪を抑えるため防波堤は必須だった。また、陸路も住民の悲願。「日島漁港事業と位置付ければ、町の財政で二つを同時に実現できると考えたのか―」。 　さらに知恵を絞ったと思われるのが、日島の最奥部に漁業施設、船揚げ場を先に整備した点。漁業施設を結ぶ輸送道路としたことで、漁港漁場整備法に基づく臨港道路の着手が可能となった。当時の行政マンのアイデアが島の人々の生活を向上させたのだ。 　漁生浦島と有福島をつなぐ護岸（全長２２１メートル）は７０年度に、有福島と日島をつなぐ護岸（全長３４５メートル）は７８年度に完成。それぞれ南防波堤、北防波堤と呼ばれる。県道日ノ島猿浦線に認定され、町が臨港道路として管理している。 　南防波堤は幅が約２・５メートル。防波堤に沿ってコンクリートブロックの護岸をもう１列整備して幅５メートルに。北防波堤は幅約５メートルで、島側の陸地より高いため、防波堤内側に道路（幅約６～８メートル）を整備した。いずれの堤防も強度が増し、車両の通行が可能となった。 　水道管も敷設し、若松島の針木ダムから水を供給している。新上五島町によると、今年５月１日現在の世帯数は有福島が６０（１０２人）、日島が２０（２６人）。 　釜崎さんは「（堤防道路がなかった）子どものころ、海水を真水に変える装置を見たことがある。島がつながったときはうれしかった」と懐かしむ。 　堤防下部には港内の海水が入れ替わるように暗渠［あんきょ］が設けられている。同町水産課は「堤防の保全、確認は日頃から行っており、約５０年たつが壊れたことはなく、構造、安全性に問題はみられない」としている。 　９１年、若松島と中通島間の若松大橋完成とともに旧５カ町の有人島は全てつながった。 　石田信明新上五島町長は２０代のころ、二つの堤防道路を初めて見た時に驚いたのを覚えているという。取材に対し「県内でも珍しい構造物と聞き、驚きも新たになった。成り立ちなどを知ると見方も変わってくる。近くには有福教会や日島石塔群もある。島内外の多くの人に見てもらうため、観光資源として活用することも検討していきたい」と話す。 ▼長崎の最新ニュース https://www.nagasaki-np.co.jp/ ▼Twitterでも最新情報を更新中   / nagasaki_np   ▼Instagram ☆V長崎、長崎ヴェルカなどスポーツ情報   / nagasaki_np_sports   ☆長崎の写真スポット情報   / nagasaki_np_photo