社会へつなぐ最後の“とりで”「自立援助ホーム」…児童養護施設や里親と違う「安全基地」 目標に向かい一歩ずつ進む若者たち (23/10/28 скачать в хорошем качестве

社会へつなぐ最後の“とりで”「自立援助ホーム」…児童養護施設や里親と違う「安全基地」 目標に向かい一歩ずつ進む若者たち (23/10/28

親の病気や虐待などで保護を必要とする子どもたちが過ごす場所として児童養護施設や里親などがありますが、「自立援助ホーム」という施設もあります。 　15歳以上の若者の自立までをサポートするもので、社会的養護のいわば「最後の砦（とりで）」と言われています。そこで暮らす若者の姿と必要とされる支援のあり方を探ります。 　「一希くん最近、勉強どうなの？」（職員） 　「やってないです（笑）」（一希さん） 　「宿題は？」（職員） 　「最低限やってますよ」（一希さん） 　ここは北海道釧路市にある自立援助ホーム「KCカルム」。 　親の病気や虐待など様々な事情で親元を離れた15歳から20歳までの男性9人が暮らしています。 　1年前からホームで暮らしている一希さん17歳。 　地元の旭川近郊の町で小学生の時にいじめに遭ったのがきっかけで家庭内で暴力を振るうようになり、11歳で児童養護施設に入りました。 　「（家族と）一言もしゃべらないこともありましたし、家庭内暴力もありました」（一希さん）　 　しかし、児童養護施設でもいじめを受けるなど孤立を深めていき5年で退所。通っていた高校も中退しました。 　家を出て、また施設を出て…。そこで出会ったのがこの自立援助ホームでした。 　「否定されなくて肯定されるので、ちゃんとした居場所は見つかったのかなと思います」（一希さん） 　親の病気や虐待などで子どもを保護する施設には児童養護施設や里親などがありますが、義務教育を終了した15歳から原則20歳までを対象に「自立援助ホーム」という施設があります。 　児童養護施設などを退所した子どもの「最後の砦」と言われていて、全国に284か所、北海道内に21か所（全国自立援助ホーム協議会加盟）あり、年々増加傾向です。 　「最後のとりで、どこにもなかなか引っかからない子たちが最後に引っかかって、一緒に考えていけるところなのかなと。心の安心・安全基地になるように、子どもたちの気持ちを日々受け止めて、生活を支えています」（KCカルム ホーム長 本間征二さん） 　社会に出るための力を養うため大切にしているのが、子どもたちの「主体性」です。 　食事や洗濯、掃除など共同生活をする中で出てきた問題は入居者全員で話し合い、ルールを決めています。 　「床やストーブ周り、机周りが汚いので土日の間で片付けたいと思います」（一希さん） 　「ペットボトルを片付けるのとかは1～2分でやれるので…」（入居者） 　「どうホームを作っていくのかを自己選択、自己主張をしっかりしないといけないのかなと思っていて、社会に出てもたくさん使う場があるので大切にしています」（KCカルム指導員 大山泰弘さん） 　ホームで生活しながら自立に向かって奮闘している若者がいます。 　達也さん(仮名）20歳。2024年の公務員試験合格を目指し、コンビニでアルバイトをしながら勉強に励んでいます。 　「（勉強は）休みの日は1日5時間とか6時間くらい」（達也さん） 　達也さんは親の病気が理由で、幼いころから児童相談所などを転々としていました。 　「知らない大人たちに囲まれてずっと過ごさないといけないというのは、当時の自分にとってはしんどかったなと思います」（達也さん） 　小学校に上がる直前に里親家庭に入り、12年間暮らしたあと、2年前にホームにやってきました。 　共同生活やアルバイトなどを通して、自立のイメージが徐々につかめるようになったといいます。 　「自分だけではなくて、周りがやりやすいようにどう動くか、さりげない気遣いが大事だなと最近は強く感じます」（達也さん） 　10月19日から2日間、札幌で自立援助ホームの全国大会が開かれました。 　施設の職員やこども家庭庁、専門家ら約300人が集まり、施設を退所したあとの支援方法などが議論されました。 　「『仕事をやめた』『お金がなくなった』『体調が悪くなった』と相談に来たとき、ただ話を聞くだけでは何の解決にもならない。必要なのはお金と仕事」（札幌市内の施設を運営） 　厚生労働省の調査では過去5年に施設などを退所した若者の2割以上が「家計が赤字」と回答するなど、退所後の生活困窮や孤立が課題となっていました。 　これを受け、2024年度の改正児童福祉法で支援対象の年齢上限がなくなり、施設や自治体が「自立可能」と判断するまで支援できるようになります。 　そこで求められるのは、より安定した就職につなぐための関係機関や地域と連携した支援だといいます。 　「社会に出る直前の支援でもあるので、各関係団体が子どもたちをみんなで見る意識を持って、つながっていかなければ」（KCカルム ホーム長 本間征二さん） 　釧路市の自立援助ホームで暮らしている一希さん。 　一度、高校を中退しましたが2023年、釧路市内の通信制の高校に再び入学し、学んでいます。 　「本来なら高3なんですけど、やり直せている感じがしていいです」（一希さん） 　「一生懸命頑張ってやっています。すごくまじめで、いろいろなことに気遣いができる子だと思います」（池上学院高等学校 釧路キャンパス 杉本和聡キャンパス長） 　一希さんは、高校卒業後、最終的に生まれた地元に戻って働きたい目標があります。 　「生まれたという意味で特別な思い入れがありますし、中学～高校を地元で過ごせなかったので、やり残した気持ちが結構あって、その気持ちだけは払しょくしたいなと思います」（一希さん） 　失敗しても大丈夫。帰ってこられる場所があるから。自立に向けて一歩ずつ進む一希さんを、援助ホームがそっと支えています。