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【理学療法士の大先輩が作った患者会】都民公開講座-スティッフパーソンみんなの会

大先輩の理学療法士が頑張っています。 スティッフパーソン症候群（Stiff Person Syndrome：SPS）は、主に体幹筋や下肢の筋に持続的な筋硬直と痙攣を引き起こす進行性の中枢神経系自己免疫疾患であり、臨床現場では極めて稀な疾患とされています。多くの症例では、抑制性神経伝達物質であるGABAの合成酵素に対する自己抗体、特に抗GAD抗体が検出され、これにより神経筋接合部における過剰な興奮状態がもたらされ、筋緊張の制御が困難となります。臨床的には、突然の音や光、情動刺激などで誘発される間代性痙攣（いわゆるスタートル現象）や、持続的な体幹の筋緊張に伴う前傾姿勢、腰椎過前弯、歩行障害、転倒リスクの増加などが観察されます。また、強い不安や自律神経症状（頻脈や発汗など）を伴うこともあり、精神症状と密接に関連することも知られています。診断は臨床症状に加え、抗GAD抗体やアンフィフィシン抗体の存在、筋電図における持続的筋活動の確認、MRI等による器質的疾患の除外などを総合的に判断して行われます。治療としては、ベンゾジアゼピン系薬剤やバクロフェンなどのGABA作動薬による対症療法、さらにIVIGや血漿交換、ステロイドといった免疫療法が行われます。理学療法士が関与する際は、過緊張による関節拘縮や痛みの管理、無理のないストレッチや関節可動域訓練、また呼吸機能低下に対する胸郭や横隔膜へのアプローチが重要となります。ただし、感覚刺激や心理的ストレスが筋緊張を誘発する可能性があるため、介入時は患者に安心感を与える静穏な環境設定と、急激な動作を避けた慎重な対応が求められます。さらに、歩行訓練では転倒リスクを十分に考慮し、必要に応じて補助具の使用や介助者の配置を行う必要があります。このように、スティッフパーソン症候群のリハビリテーションにおいては、単なる運動機能の改善だけでなく、神経免疫学的背景と心理社会的要因を踏まえた多角的かつ丁寧な支援が不可欠です。 演者　小林ちえみ様 私は1964年生まれで丁度還暦を迎えました。昭和61年から理学療法士として勤務してきました。発症は2012年東北の震災後のことです。48歳でした。左手の持続した痙攣と舌のミオクローヌスで発症しました。徐々に左上肢、両下肢、右上肢へと痙攣や硬直が進んで行きました。最初は長く歩くと硬直してきて、立ち止まらないと歩けない間歇歩行のようでしたが、東京駅の雑踏で広場恐怖症と全身の硬直を起こし声も出せず、何とか交番へたどり着き救急搬送された経験があります。それ以降、ステロイドパルス療法を実施し一時的には回復しましたが、肺炎を起こしてから、酸素と夜間の呼吸器が必須となりました。その後もCO2ナルコーシスのため24時間酸素と呼吸器使用となりました。ステロイド大量投与の副作用で両側大腿骨頭壊死も起こり終日屋内外共に電動車椅子使用しています。肺炎を機に失職することになりましたが、それまで働きながら修士課程、博士課程へと進み何とか博士号取得出来ました。今までの知識を活かして会の立ち上げから世話役をしています。 質問①：患者会の活動について教えていただけますか？ 回答： 「スティッフパーソンみんなの会」は、2016年に5人の有志によって設立され、今年で10年目を迎えます。会員は未だ少なく、サポート会員を入れて25名です。スティッフパーソン症候群（SPS）は日本ではまだ広く知られておらず、整形外科疾患や精神疾患と誤診されやすいという現状があります。SPS研究班の無作為サンプリング全国疫学調査では50万人に1人（257人）が抽出されました。もっと沢山の方が存在すると考えられ、会に入って頂きたいところです。 当会の主な活動内容は大きく分けて4つ有ります 1. 研究支援と情報発信について SPSの原因究明と治療法の確立を目的として、徳島大学を中心とした研究班との連携により、医療関係者への情報提供と研究協力を行っています。 2. 医療機関との連携について 本疾患の診療科が脳神経内科であることから、脳神経内科医師への認知向上を目指し、脳神経内科学会にて患者会の出展を行ってきました。また、患者の多くが背中や腰、下肢の硬直・痙攣により整形外科を長期間受診していたことから、整形外科学会でも展示ブースを設けて情報発信を行ってきました。 3. 患者と家族の交流について 患者およびご家族の相互交流を通じて、有益な情報交換を行っています。現在は年6回、Skypeを用いたオンライン患者交流会を開催しています。 4. 広報活動として、 ホームページのほか、LINEオープンチャット、Facebook、Instagram、X（旧Twitter）などのSNSを活用し、情報の提供と収集、広報活動を行っています。 質問②：現在の課題について教えてください。 回答： 現在、以下のような課題に直面しています。 1つ目に、指定難病未認定による経済的負担です。 本疾患は指定難病に含まれていないため、身体障害者手帳を取得していない方にとって、特に免疫グロブリン療法の自己負担が大きな障壁となっています。さらに、筋緊張が歩行により悪化するため、電動車椅子の必要性が高いものの、レンタル費用は全額自己負担で、医療費控除の対象外です。身体障害者手帳3級取得までの心理的・経済的・医療的負担は非常に大きいものとなっています。 2つ目に診断の地域差です。 診断に至るまでの過程に地域格差があり、確定診断がなされなければ、身体障害者手帳の取得も困難です。好発年齢は40代前後とされていますが、20代から60代まで幅広い年齢層に見られます。 3つ目に障害者相談員さんの理解と対応です。 相談員さんは100名程度の担当で採算が取れるため、一人ひとりの変化する症状に十分な対応が難しく、進行性自己免疫性神経疾患であるSPSへの理解もまだ不足しています。進行性の難病に対する相談員の特別な報酬加算と研修が必要です。 4つ目にソーシャルサポートの地域格差です。 在宅医療や24時間対応の訪問看護、SPSに理解のある主治医の存在が地域によって異なり、支援の質に大きな差があります。 5つ目に薬剤の早期承認と献血の促進です。 海外で承認されている薬剤の国内早期承認を求めています。また、免疫グロブリン製剤は1000〜1500人分の献血から作られるため、グロブリン製剤の不足が懸念されています。若い方の献血をお願いしたいです。 質問③：一番伝えたいことは何でしょうか？ 回答： 一番お伝えしたいことは、「早期発見・早期治療の重要性」です。スティッフパーソン症候群は進行性の疾患であるため、早期に診断され、適切な治療を受けることが、患者のQOLを大きく左右します。 特に、働き盛りの方々が病気によって失職したり、学生が将来の可能性を閉ざされたりしないように、就労支援や教育現場での理解も不可欠です。 その一環として、理学療法士がこの疾患を正しく理解し、早期に適切なリハビリテーションを提供すること、さらには必要に応じて脳神経内科へ繋ぐ役割を果たすことが非常に重要です。理学療法は症状の緩和や身体機能の維持に貢献し、患者の自立した生活を支える大きな力となります。 こうした多職種の連携が、患者一人ひとりの未来を守る鍵になると私たちは考えています。