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令和4年度 秋期 データベーススペシャリスト試験 午後Ⅰ 問2の解説です。本問は、見積業務システムを題材に、オンプレミス環境からパブリッククラウド(PaaS)へ移行する際の設計変更について、論理設計と物理設計の両面から理解しているかを問う問題です。具体的には、商品マスターの履歴管理をどのように実現するかというデータベース設計上の論点と、クラウド基盤における可用性設計としてのRPO・RTO、レプリケーション方式の理解が中心になります。 設問1は、商品テーブルの履歴管理に関する問題です。業務要件として、商品マスターが更新された場合でも過去の情報を失わないようにすることが求められています。まず、図2に示されたSQLでは、見積回答時点で参照した商品情報と、現在のマスタ情報との差異を検出します。このとき、見積回答明細テーブルと商品テーブルを結合するための条件は、両者に共通する商品コードになります。また、抽出条件としては、モデル名または定価のいずれかが変更されている場合を対象とするため、論理和を用いた条件式になります。 次に、履歴管理の方式による影響を考えます。既存の商品テーブルの主キーである商品コードに適用開始日を加えて複合主キー化する案では、一意制約の単位が変わってしまいます。その結果、商品コードのみを外部キーとして参照していた見積依頼明細や見積回答明細との整合性が保てなくなり、外部キー制約の見直しが必要になります。このように、主キー構成の変更は、関連する多くのテーブルに影響を及ぼす点が重要です。 そこで案2として、現行の商品テーブルは最新データのみを保持し、過去データは商品履歴テーブルに退避させる方式が採用されています。商品履歴テーブルでは、商品コードと適用開始日の組み合わせで一意性を保ちます。トリガーの使い分けも本問の重要ポイントです。更新前に新しい適用開始日を補正する必要がある処理では、更新前トリガーを用います。一方、変更前のデータを履歴テーブルに挿入する処理は、更新後トリガーで行います。このとき、履歴として保存するのは更新前の値であり、適用終了日は新しい適用開始日の前日とするため、更新後の値を参照して日付計算を行います。 データ移行に関する設問では、日付の前後関係と、どの行が最新データでどの行が履歴データになるのかを正確に判別する力が問われています。適用終了日が設定されていない行が現在有効な商品データであり、適用終了日が設定されている行が過去の履歴データになります。この振り分けを誤り、同じ行を両方に含めてしまうのは典型的な誤答パターンです。 設問2は、クラウド基盤における可用性設計がテーマです。RPOは、障害発生時にどこまでのデータ損失を許容するかを表す指標であり、本問ではログが5分間隔で保存されるため、最大で5分間のデータが失われる可能性があります。RTOは、障害から復旧完了までに要する時間で、フルバックアップからのリストア時間と、その後のログ適用時間を合算して求めます。データ容量、転送速度、ログ適用速度といった前提条件を式に落とし込み、秒単位で計算できるかがポイントになります。 後半では、非同期レプリケーションの特性が問われています。非同期方式では、複製先への反映を待たずにトランザクションがコミットされるため、本番系の性能への影響は小さくなります。一方で、複製元が障害を起こし、ログが複製先に到達する前にフェイルオーバーした場合、その差分データが失われる可能性があります。この性能と安全性のトレードオフを理解しているかどうかが評価されます。 本問全体を通じて重要なのは、データの整合性を保つための論理設計と、データを守るための物理設計を切り分けて考えられるかどうかです。トリガーでは、いつ、どの値を使って、どのタイミングで処理を行うのかという設計意図が問われ、クラウド基盤では、可用性指標やレプリケーション方式の特性を数値と挙動の両面から理解することが求められます。データベーススペシャリスト試験 午後Ⅰとして、実務に直結する知識と考え方が凝縮された問題と言えます。