ミヨー / フランス組曲【吹奏楽】Darius Milhaud / Suite Française скачать в хорошем качестве

ミヨー / フランス組曲【吹奏楽】Darius Milhaud / Suite Française

ウインドオーケストラオリジン第6回定期演奏会 日時:2025年1月25日(土) 会場: タワーホール船堀　大ホール 演奏: ウインドオーケストラオリジン 指揮: 永原 裕哉 撮影: G.K.Works 【楽曲解説】 作曲者について 　作曲者のダリウス・ミヨーは1892年プロヴァンス地方のマルセイユで生まれました。ミヨーは自身の立場について「私は、プロヴァンスの、そして宗教的にはユダヤ教を信ずる、フランス人です」と述べています。実家は裕福で両親とも音楽において優秀な人物であり、ヴァイオリンと室内楽の手ほどきを受け、1909年にパリ音楽院に入学。グザヴィエ・ルルーに和声を師事しますが出来が悪く、アンドレ・ジェダルジュの下で対位法を勉強しました。ジェダルジュはミヨーに音楽家としての技能を教え込み、「伴奏なしで演奏できる８小節を作曲してみたまえ」というジェダルジュの教えに、ミヨーは「旋律の作曲」という点で大きな影響を受けました。1915年にミヨーは対位法を研究する中で、バッハのカノンの中に２つの調が同時に存在することを発見します。同時代のストラヴィンスキーやケックランも多調の作品を発表していましたが、それは和音そのものの重なり方、あるいは保続和音として扱われており、旋律そのものの多調性という観点でミヨーは研究を進めていきました。また1917年からブラジルへ渡り、民族色豊かなブラジルのリズムにも影響を受けています（この経験が、現在でも頻繁に演奏される『スカルラムーシュ』の作曲に繋がりました）。フランス国内では「フランス6人組」の一人とみなされ、代表作『世界の創造』などで注目を集めました。1940年にユダヤ人であったミヨーは、ドイツの迫害を逃れるためにアメリカに渡り、ミルス・カレッジでの教授活動の他、作曲活動や指揮者としての活動も熱心に行いました。第二次世界大戦が終結した後は、パリ音楽院の教授も務め、フランスとアメリカを行き来しながら多忙な生活を過ごし、1974年にスイスのジュネーブで亡くなりました。 　ミヨーの特徴のひとつとして「多調性」がありますが、上記の通り、それは和声をいかに探究していくか…という方向ではなく、あくまで旋律の可能性を探究していった結果であると考えられます。1917年『放蕩息子の帰宅』を作曲する際には「それぞれの楽器に独立した線を与え、その線が旋律や調によって独自の表現を持つようにした。多調性は和音に存在するのではなく、それぞれの線が出逢うところに存在するものなのである」と述べていることからもそれが伝わるものと思います。『フランス組曲』はその作曲の経緯から、多調性を前面に押し出していませんが、様々な旋律を技巧的に組み合わせてモダンな響きを生み出すというミヨーの魅力が、存分に味わえる作品であるといえるでしょう。 楽曲について 　ユダヤ人であるミヨーはドイツがフランスに侵攻することから逃れるため、1940年にアメリカに渡りました。しかし、フランスに対する思いは持ち続けており、1944年６月にノルマンディに上陸した連合軍がパリを解放したという知らせを聞いたミヨーは、リーズ出版社の委嘱を受け、感謝の気持ちをこめて本作を作曲しました。ミヨーはこの作品について、「…私は以前から高校バンドのためによい作品を書きたいと考えていて、この曲がその結果である。…若者たちには、難しくなくて質の良い音楽が必要だ。…私は、これらの地方のいくつかの民謡の旋律を用いた。私は若いアメリカの人たちに、彼らの父や兄が、フランスの平和的で民主的な人々に70年にわたって戦いを挑み、破壊、残虐、苦痛、殺人をもたらしたドイツの侵略者と戦って解放してくれたこれらのフランスの地方のポピュラーなメロディをきいてほしいと思っている。…」と述べています。1945年６月に、ニューヨークでゴールドマンバンドによって初演され、管弦楽版も同年７月にニューヨーク・フィルハーモニックによって演奏されたほか、２台4手のピアノ版も出版されています。 この作品は全部で５つの楽章に分かれており、フランスの5つの地方に伝わる11の民謡と、おそらくミヨーが作曲したと思われる未確認の7つの曲に基づいて作曲されています。 １．ノルマンディ 　ノルマンディはフランス北西部にあるイギリス海峡に面した地方でシードルの産地としても知られていますが、歴史的には連合国軍によってドイツ占領下のフランスに上陸しフランス全土を解放する糸口となったノルマンディ上陸作戦の場所として知られています。ノルマンディ上陸作戦の成功を受けてか、行進曲調の、明るく陽気な楽章です。楽曲中に用いられる民謡は、「戦士」や連合国である「イングランド」が取り上げられており、ミヨーのフランス解放への喜びが現れています。 ① Germaine（ジェルメーヌ）【１小節目～】 この民謡は「戦士の帰還」を扱っており、ホメロスの『オデュッセイア』から始まる叙事詩に登場する、非常に古い題材です。 ② La bergére de France et le roi d’Angleterre（フランスの羊飼いとイングランドの王様）【45小節目～】 この民謡はイングランド王がパリの羊飼いの女（浮気をしていた元愛人）との出会いを歌ったものです。王様は剣を、羊飼いは杖を互いに傷つけようと武器を取り出しましたが、最終的には敵意を捨て抱き合う…といった内容です。 ２．ブリュターニュ 　ブリュターニュはフランス北西部にある地方で、イギリス海峡につきだしたフランス最大の半島に位置しています。リアス式海岸に囲まれ多くの港を抱えた、古い歴史を持った場所です。使われている民謡は以下の通り。 ③ La Paimpolaise（パインポールの娘）【１小節目～】 ホルンによって歌われるこの民謡は、ブルターニュ北岸のサン・マロ湾に位置する漁村パインポール（現在は賑やかな港と市場の町）に帰りたがるホームシックの船乗りの物語です。なお、ミヨーは民謡のリフレイン部分のみを使用しています。 ④ Les marins de Groix（リーの水兵たち）【12小節目～】 このブルターニュ地方の哀愁漂う海の唱歌は、2人の水夫が任務遂行中に海に落ちた船員の死を嘆くものです。オーボエによって切々と歌われる旋律の中、フルートなどによって奏されるハーモニーは、追悼の鐘のように響き渡ります。 ⑤ La chanson des métamorphoses（変身の歌）【27小節目～】 木管楽器によって歌われるこの物悲しい歌は、実はラブソングであり、「あなたがバラの木の蕾になるならば、私は庭師になってバラの芽を摘み取ろう」というように、愛する人が変身したらどうするか…を語っています。 ３．イル・ド・フランス 　イル・ド・フランスとは、パリを中心とした地域圏のことを指します。大都市パリのにぎやかさを表すスケルツォ的な楽章です。使われている民謡は以下の通りです。 ⑥ A ma main droite j’ai un rosier（右手にバラをもって）【2小節目～】 この気楽な曲（副題は 「Children's Round」）では、3/4拍子と2/4拍子が交互に繰り返される楽しげな民謡です。ミヨーはこの曲を２分の２拍子で再構成しましたが、原曲の拍子はアクセントの位置によって表現されています。 ⑦ Voice la Saint-Jean（聖ヨハネの日）【25小節目～】 春の祝祭と同様、洗礼者ヨハネの誕生日とされる6月24日の祝祭もその歴史は非常に古く、夏至と結び付けられて祝われてきました。恋愛や結婚を特徴づける歌が歌われることが多いようで、この曲もその一つです。 ⑧ La belle au rosier blanc（白バラの乙女）【51小節目～】 若い女性の死について歌われるロマンティックな民謡で、フランスではよく知られています。 ４．アルザス・ロレーヌ 　アルザス・ロレーヌはフランス北東部にある地方でドイツと国境を接しており、歴史的にもドイツと領有権を奪い合っています。第二次世界大戦におけるナチス・ドイツの占領政策では、実質的にドイツ領に編入される形となっており、1945年２月までドイツによる支配が続きました。そのような背景もあってか、民謡そのものの明るい内容は影をひそめ、深い哀愁が様々な楽器の独奏によって歌われる葬送行進曲のような楽章です。 ⑨ Voici le mois de Mai（５月が来たよ）【25小節目～】 この幸せな愛の歌は、フランスのシャンパーニュ地方でよく知られている春の祭りに関連した内容となっています。 ⑩ Le mois de Mai（５月）【54小節目～】 この伝統的な施しの歌（物乞いの歌）は、新年、復活祭、5月1日などの祭りの日に歌われていました。若者や子供たちの一団が、村や近隣の集落を回り、裕福な家の門前で立ち止まって歌い、恒例の贈り物を受け取っていました。 ５．プロヴァンス 　プロヴァンスは南フランスの南東部を占める地方で、夏は乾燥していて過ごしやすく、ワインや料理、豊かな文化や歴史を持つ場所です。ミヨーの出身地でもあり、彼は自分の故郷をこの作品の終曲に充てました。冒頭の木管楽器による駆け回るような楽しげな旋律と、胴の長い太鼓のリズムの上に横笛の軽やかな舞曲風の旋律はミヨーの創作であり、最終的にはこの２つの旋律と以下に紹介する「マガリ」の旋律がミヨー得意の鮮やかな対位法に導かれて、華やかなエンディングを演出します。 ⑪ Magali（マガリ）【58小節目～】 このラブソングのテキストは、フランス全土で親しまれている伝統的な「変身」の主題のバリエーションです（第２楽章に出てくる「変身の歌」を参照）。プロヴァンス地方の民謡の旋律にのせて歌われます。