何万個の点々が暴く社会の闇 скачать в хорошем качестве

何万個の点々が暴く社会の闇

今回はグランド・ジャット島の日曜日の午後（1884年 – 1886年）について この絵は印象派からポスト印象派への橋渡しをする重要な作品とされていて 多くの芸術評論家や美術館訪問者から「必見の作品」とされ、美術史上の傑作として広く認知されています ↓以下スクリプトです↓ この絵は見た目通りの絵ではありません この絵は何千、何万個の点の集合体です ここにいるのは48人の人 8隻のボート 2人のガードマン 4匹の犬... ではなく3匹の犬と1匹の猿… この絵はジョルジュ・スーラの グランド・ジャット島の日曜日の午後 一見平和な島の絵ですがよく見ると 大体の物事は見た目通りでは無い事に気が付きます 時は1886年 フランス、パリ近郊のセーヌ川に浮かぶ中州 グランド・ジャット島 ここには普段騒がしい都会から避難した ブルジョワジー中流階級の人々が集まっていました しかし日曜日になると色んな階級の人達も グランド・ジャット島に行きました 手入れが完璧に行き届いた芝 トランペットを吹く人 カヌーを漕ぐ人 ヨット 寝転ぶ人 赤ちゃんを愛おしそうに抱く夫婦 1番目を引くのはこの黒い傘を持った女の人 お尻の部分がフワッと膨らむ バッスルスタイルのドレスを着ています 彼女の横にはタバコを持ち 綺麗な服をきたシルクハットのジェントルマン このカップルは小洒落た格好をしています まぁ大体この島に来る人は小洒落た格好をしているんですが この人を除いて この人は明らかに労働階級の男 タンクトップ姿でゆっくりしています そして彼の側には黒い犬 こっちにも犬 こっちには蝶 こっちにも猫背の犬が… 猿！それは犬じゃなくて猿だよ！ なんでこんなところに猿が… ここに猿が描かれているのには闇があります グランド・ジャット島は単なるお金持ちの憩いの場ではなく お金持ちが愛を買う場所 つまり娼婦を買う場所でもありました 猿はこの時代性欲の象徴とされていてフランス語で singe  singe というとスラングで娼婦という意味です なのでおそらくこの男の人はこの女の人の客 ジョルジュ・スーラはダジャレが好きだったみたいです 川のほとりでは女性が釣りをしています 別になんの変哲もない光景ですが この時代、女の人が釣りをしている絵は娼婦の象徴でした 娼婦が釣り、つまり客を探している…という感じでしょうか そしてフランス語で釣りは Pêche フランス語で Pêche というと罪を犯す という意味にもなります ジョルジュ・スーラは 本当にダジャレが好きだったみたいです この絵は柔らかい雰囲気の中に ザラっとした砂のような質感がある本当に不思議な絵です ジョルジュスーラは一匹狼で 変わり者で秘密主義で有名な画家でした そして彼は誰もが認める完璧主義者でした 彼は特に自分の作品にはこだわり 新しい表現方法を模索していました ジョルジュスーラはこう言っています 「人々は私の作品に詩を見出そうとする しかしそれは間違い 私は私のシステムを絵に取り入れただけだ」 ジョルジュスーラは彼のシステムをフランスの化学者 ミシェル＝ウジェーヌ・シュヴルールの 色彩理論に基づき開発しました ミシェルウジェーヌの色彩理論は色を小さな点や 短い筆触で分割し配置すると見る人の目の中で色が混ざり 鮮やかな色にみえる 特に補色関係の色を近くに置くと 絵の具をパレット上で混ぜるより 鮮やかで明るい発色が実現できるというものでした ま、この理論は後に間違っている事が判明したんですが とりあえずジョルジュスーラはこの理論を愚直に信じ 絵を点で描く方法を確立しました 今はこの技法は点描として広く知られてしまいますが ジョルジュスーラはこの方法を分色主義と呼びました 分色主義もとい点描は印象派が流行っていた当時 「これまでの印象派とは違う新しい表現方法」 として話題になり 新しもの好きの画家達ゴッホ カミーユ・ピサロ レオ・ゴーソンが次々と試験的に点描をとりいれました しかしこのグランド・ジャット島の日曜日の午後 ちょっと冷たい感じがします… なんだか人物たちが彫刻っぽいというか… ジョルジュスーラは印象派画ですが 伝統的な芸術に憧れていました 彼は美術学校で彫刻のデッサンをするなど 伝統的なアカデミックアートを学び 兵役のため美術学校を辞めた後も ずっと伝統的な芸術に対する関心は冷めませんでした 「ペイディアスが大理石の彫刻で 調和のとれた構図を作ったように 私は色彩の調和を用いて キャンバスに現代の人の姿を描きたい」 そういう程、彼は彫刻をずっと見てきて その姿に憧れていました だからグランド・ジャット島の日曜日の午後の人物は 彫刻のような感じがするのかもしれません このグランド・ジャット島の日曜日の午後が 1886年の第8回印象派展で発表された時 観客はざわつきました ある評論家は「この絵は人々を不安にさせる ジョルジュスーラは統制されていない広場に置いた人々に 鉛の兵隊のような機械的な動きを与えている」と言い またある評論家は「とても革新的な絵だが 人々に動きが無い 型抜きされたような人々がモダンの要素を強めている この絵はいかに私たちの雑に仕上げられた服が 僅かな動きでも張り付く事を思い出させる」と言いました つまりジョルジュスーラの人物描写は人工的で まるで型抜きされたように見えるため観る者に 「窮屈な服を着て不自然な姿勢をとっている自分たち」 を思い出させると批判しているのです また美術史学者のリサノックリンは この絵を現代社会の象徴として解釈しました 「規則的な点で生まれた機械的な横顔は 現代科学や大量生産を伴う現代産業 安価で大量に複製される百貨店の商品 メディアが絶え間なく生み出す映像を彷彿させる ジョルジュスーラのこの発明（点描画）は 現代的な要素を過剰に表現していて 現代社会への批判的な感覚が存在する」 この頃は新聞や雑誌などのマスメディアが急速に発展し イラストや写真が 大量に印刷されるようになった時代でもあったので ジョルジュスーラの絵の均質な点描やシンプルな形態は そうした大量生産されたものと似ていて 当時の工業化社会や消費文化の象徴といわれたのです ジョルジュスーラがわざとそういった雰囲気にしたのは この赤い長いリボンをつけた女性をみれば分かります この女性は19世紀の乳母の典型的な服装をしています ジョルジュスーラは グランド・ジャット島の日曜日の午後を描く前に 乳母のスケッチをしていました こうしてみると彼の絵の乳母は 段々と人間らしさが削ぎ落とされ 最後は石像のようになってしまったのがわかります グランド・ジャット島の日曜日の午後を描く2年前 ジョルジュスーラは 「アニエールの水浴」という絵を描きました アニエールはセーヌ川を挟んで グランド・ジャット島の向かい側にある もう一つの人々の憩いの場所 ここに描かれているのは上半身裸でくつろいでいる男たち 服装から察するに彼らは労働者階級の人々でしょう 川にはグランド・ジャット島の日曜日の午後にも 描かれていたボートやヨットがあり ボートではお金持ちが 労働者にオールを漕がせてくつろいでいます ボートの先には木々があり その奥にグランドジャット島があります そしてここにいる人たちの職場でもあるであろう工場もあり もくもくと有害物質を出しています アニエールの水浴とグランド・ジャット島の日曜日の午後は 明らかに姉妹作品でセーヌ川の川辺を現していました お金持ち、ブルジョワジーの川辺と 労働者階級の川辺です ２つの岸にいる人々は同じ水 同じ空を共有しているはずですが 労働者階級の川辺の空は工場からの煙で澱んでいて お金持ちの川辺の空は可愛い白い雲が浮かんでいます お金持ちの川辺からも当然工場は見え 煙も存在していたはずですが ジョルジュスーラはわざとこっちの川辺には 工場を描きませんでした ジョルジュスーラは産業革命の後この２つの絵を描きました 産業革命によりブルジョワジーはより豊かになり 日曜日はしっかり休み優雅な時を過ごせました しかし労働者階級の人々の仕事はより忙しくなり 日曜日も休めないこともしばしばありました 工場を描く事により労働者階級の人々は 休日も仕事から逃れられない事を ジョルジュスーラは現したかったのかもしれません アニエールの水浴はパリのサロンの審査に落選し サロンに展示されることはありませんでした ジョルジュスーラの新しい技法が サロンでは受け入れられなかったのと同時に 労働者階級の人々が主役の絵というのも落選理由でした ある審査員は「この絵は誰も喜ばない」 とすら言ったそうです この出来事をきっかけにジョルジュスーラは グランド・ジャット島の日曜日の午後の制作に取り掛かり 次第に執着するようになりました 彼は何枚も何枚も習作を制作しました 最初は単純な筆使いで描かれた絵でしたが 彼は約2年の歳月をかけ 何千、何万個の点点を足してこの絵を完成させました ジョルジュスーラは 計算され洗練された絵を描く画家でしたが 彼の私生活はあまり洗練されたものではありませんでした 彼は比較的裕福な家庭に生まれましたが 父親は司法官で忙しく 彼は殆ど父親と関わりはなく ジョルジュスーラは母親と親密な関係を築いていました しかし彼は秘密主義者で私生活を母親を含め 殆ど誰にも共有しませんでした 彼は絵のモデルをしてくれた女性と同棲し 子供までもうけましたが 恋人や子供の存在を誰にも打ち明けませんでした 彼は1891年謎の病気で31歳の若さで 亡くなってしまいましたが ジョルジュスーラの母親は 彼が亡くなった後しばらくして 彼の子供と恋人の存在を知りました 彼は徹底した秘密主義者でしたが 自分の作品に対する情熱は隠さず妥協しませんでした 亡くなる数年前にも グランド・ジャット島の日曜日の午後に手を加えています 彼はキャンバスを張り直し その余白に赤と青の点点を無数に描き込みました そうした方が絵がより目立つと考えたのです この絵は現在シカゴ美術館に所蔵されていて 世界中の人々がこの絵を身に訪れています そして訪れた人はしっかりと目に焼き付けるのです この沢山の点点を という事で今回は点描画を生み出した秘密主義の天才 ジョルジュスーラの グランド・ジャット島の日曜日の午後についてでした #美術 #美術史