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【哲学者も破滅】睡眠を削る者は『元金一括返済』を迫られる：ショーペンハウアーの休息哲学

『筆のすさびと落穂拾い（幸福について）』から。 どんな偉人、天才も、仕事のし過ぎで脳をやられてはおしまいです。心は生理現象に過ぎません。睡眠不足で脳の洗浄が不十分だと理解力や判断力に影響が出ます。 ショーペンハウアーは当初は医学部に籍を置いていたので、当時最先端であった生理学の知識にも造詣がありました。 ＃＃＃ ショーペンハウアーが「脳は脈拍と呼吸のたびに運動をしている」と言っているのは、血流で酸素を供給し、摩耗や疲労（によって生じた老廃物）が呼吸で外に出されるという神経系全体の代謝プロセスを考えていたということです。 この考え方は、現代の神経科学では完全に正しいとは言えませんが、その本質は捉えています。 脳の老廃物（アミロイドβなど）の主な排出は、近年発見されたグリンパティック系と呼ばれる、睡眠中に活性化する洗浄システムで行われます。睡眠中はアミロイドβの除去効率が覚醒時の数倍になるそうです。 アミロイドβは、脳内に蓄積するとアルツハイマー病発症のリスクが高まるとされており、睡眠不足と認知症（特にアルツハイマー病）発症との間には強い相関があることがわかっています。 カントやイギリスの詩人たちの話も、邪推どころか真実を捉えていたのかもしれませんね。 ショーペンハウアーは手段を「呼吸による排出」と考えましたが、「脳が活動によって疲労物質を生成し、その排泄と浄化のために休息と特定の身体リズムが必要である」という根本的な認識は、現代の脳科学の結論（睡眠の重要性、老廃物除去）と一致しています。 ＃＃＃ 以下の個所は現代の目から見ると間違いを含んでいます。 「消化作用の間は脳を休息させる必要がある。脳の中で思考するその活力が、糜汁や乳糜を作るために胃や腸の中で働いているからだ」 消化器官と脳が「思考する活力」という有限なパイを取り合うという考え方は間違いです。消化時、脳血流はむしろ増加します。ただし、消化にエネルギーを多く使うため、脳の活動性が低下するという現象（食後の眠気など）は起こり得ます。 「神経は、激しく運動するほど摩耗し弱くなる性質を持つ」 神経細胞が物理的に摩耗すると捉える考え方は間違いです。精神的疲労は、神経伝達物質の枯渇、脳内の炎症、細胞内代謝産物（老廃物）の蓄積などが原因と見られています。 ただし間違っているのは、現象を説明するための「当時の物理的・生理学的な推論」であり、「脳は酷使すれば壊れる物理的な器官であり、休息・睡眠は不可欠である」という結論そのものは正しいです。