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小さな島の郵便局で、彼女は毎年、二月十四日だけ特別に置かれる窓口に立つ。臨時職員だが、名札はつけない。窓口には「受付」とだけ書かれている。町の人もそれを知っていて、彼女を呼ぶときは決まって「今日の人」と言った。 「今日の人、これ、お願いします」 この日に差し出されるのは、封筒でも葉書でもない。赤い紙袋や、銀色の缶、透明な箱。中身が何かは、見なくてもわかる。 彼女は受け取る。重さを確かめる。カウンターの下から、小さな黒い箱を出す。中にはトランプが入っている。新品でも古びてもいない。彼女は、それを一枚引く。それが彼女の仕事だった。 朝いちばんに来たのは、中学生の女の子だった。髪には寝癖が残っている。 「……これ、先輩に」 紙袋の中には、手作りのクッキーが入っていた。星形のものがひとつだけ見える。 受付の彼女は引いたカードを見る。 「三ですね」 「……三?」 「数えてから渡しましょう。三つ数えて、少し待って、それから」 女の子は戸惑いながらも、言われたとおりにする。 「いち、に、さん」 黙る。 「今度は、少し下がって」 女の子は一歩、二歩、三歩と下がった。そのとき、紙袋の持ち方が自然になった。 「……なんか、平気かも」 女の子は小さく笑い、歩いていった。 次に来たのは、スーツ姿の男性だった。香水の匂いが少し強い。 「妻に……いや、元妻にです」 ブランドの紙袋を差し出しながら、視線を落とす。 彼女はカードを見る。 「クイーンですね」 「意味、ありますか」 「今日は、あなたが決めなくていい、というだけです」 男性は少し考えてから、紙袋を持ち直した。 「……渡すだけ、ですね」 「はい」 男性はそれ以上何も言わず、外へ出ていった。 昼を過ぎても、途切れずに人は来る。 「本命です」 「義理です」 「自分用です」 彼女はカードを見る。ときどき言葉を添え、ときどきは何も言わない。 「少し間をあけてから」 「半分にして」 「今日は、急がなくていいです」 それだけで、持ち物の重さが変わる人がいる。変わらない人もいる。 夕方、最後の客が来た。青年だった。手には何も持っていない。 「……渡すものは、ありません」 彼女は頷いた。 「それでもいいです」 カードを一枚引く。 「ジャックですね」 「弱そうだ」 「役次第です」 青年は少し笑った。 「何をすれば」 彼女は少し考えてから言った。 「何ももらえない人の話をよく聞いてあげてください」 青年は首を傾げた。彼女は続ける。 「今日は、それをする人が足りていません」 「……それだけ?」 「ええ」 「聞く?」 「『いまどう思ってる?』って」 青年は困った顔をした。 「嫌われますよ」 「たぶんね」 しばらくして、青年は頷いた。 「……行きます」 「お気をつけて」 青年は何も持たずに出ていった。背中は、来たときよりまっすぐだった。 シャッターが降りる。島の郵便局の中に、静けさが戻る。 帰り際、彼女は自分のためにトランプを引いた。出るカードは、なぜか毎年決まっている。 『島ジョーカー』文:真田